おまえを初めて見たのは、おまえの高校入学の日だったな。
久しぶりにたずねた友人が、いそいそと出かける準備をしていたので、
「デートか? 相手の女性に会わせろよ」と、強引に貼りついて行ったときだった。
高校生らしからぬ典雅な立ち居振る舞いに、俺はすぐに釘づけだ。
おまえを見ているだけで、とても懐かしい気がした。おまえから、視線を外せなかった。絶対に俺のカメラの中におさめたい! と、強く願った。
翌日からはさっそくストーカーだ。
校門でおまえの帰りを待つ。俺に気付くのに、おまえは逃げるように地下鉄への階段を駆け下りて消えてしまう。そのたび、胸に苦い思いが泡のように湧きあがていたこと、おまえは知らないだろう。
走って逃げるおまえの後姿を見つめながら、あのとき、俺がなにをこの世で一番欲しかったか、知ってるか?
おまえの『心のカギ』だ。
それでおまえの一番近い場所に存在を許されるなら、俺は何日でもおまえのもとに通い詰めることくらい、朝飯前だった。
何回目の待ち伏せだろう。おまえはようやく俺に車のドアに手をかけてくれた。
あのときのうれしさは、今でも忘れていない。
この世に存在するどんな宝石よりも貴重なおまえの
心のカギを手に入れた瞬間……
千早という天女が、俺の愛車に乗ってくれた奇跡を、
俺は一生忘れない。